豪雪時の降雪の主役は雪片である。また、梅雨や低気圧などの層状性の厚い雲 から降ってくる雨の多くは、上空で形成された雪片が融解してできたものである。 言い換えれば、雪片形成とその融解は一番重要な降水形成過程と言っても過言で はない。それにも拘わらず、気象の教科書や解説書には雪片や霙(みぞれ)の記 述が極めて少ない。雪片を構成する個々の雪結晶の研究は、中谷宇吉郎の「人工 雪の実験」によって物理として見事に花開いた。中谷は「雪は天からの手紙」と 言う有名な言葉を残したが、雪片の場合には、時には数100個の雪結晶が絡み合っ ているので、雪片は天然の高密度記録媒体といえる。また、雪結晶の研究はいわ ば「形」の物理学であるが、雪片は複雑な形をもった多くの雪結晶が絡み合って できたさらに高次な構造体といえる。同様な現象としては、土壌粒子や有機物が 凝集してできる海洋中のマリンスノーがよく知られているが、宇宙や大気中、水 中、血液中など微小粒子が存在するところには必ず起こる現象である。これら凝 集物の物性はどの分野においても測定が困難である一方、予想外の研究成果が出 る分野でもある。
本研究ノートは、Ⅰ部「雪片の諸特性と形成過程」とⅡ部「雪片の融解」から 構成されている。第1章「雪片研究の背景」に次ぐ第2章では雪片の観測法につ いて、第3章では、世界にさきがけてわが国で開発された雪片の自動観測装置に ついて解説した。この測定システムと画像処理法は、今後この方面での研究を目 指す読者に大いに役立つであろう。第4章では雪片の諸特性についてまとめ、第5 章では、スーパーコンピューターを用いてようやく可能になった雪片形成のモン テカルロシミュレーションの計算方法とその結果について解説した。第Ⅱ部の第 6章では「雪片の融解に関する研究の背景」について述べ、以下、第7章「雪片等 の融解メカニズム」、第8章「雪片の融解・昇華に伴う大気の冷却」、そして最 後の第9章では「降水予報と観測業務への応用」について解説した。
編集:藤吉康志(北海道大学) 127ページ、2005年1月31日発行 価格、会員:1,800円、会員外: 2,600円 (気象研究ノート編集委員会) |