放射計算技術は気象・気候研究におけるエネルギー収支の評価に不可欠であり,また大気や地表面のリモートセンシングにおいても基盤的役割を担っている。鉛直1次元構造の平行平板大気を仮定した無偏光の多重散乱過程を含む放射計算は,すでに1990年頃までには確立していた。その後,現実的な雲のように3次元構造を持つ大気中の放射伝達や,偏光を考慮した放射伝達,非球形粒子による散乱の計算技術が飛躍的に発展した。また,気体分子による吸収・射出過程も高精度吸収線データの整備と計算機の発展に伴い,現在では精確な波数積分ができるようになっている。このような状況のもと,最新放射計算技術と気象・気候学研究における応用について,幅広い研究分野で活躍されている研究者に解説を頂いたのが本書である。内容は大気における放射伝達問題に限らず,電磁波の散乱計算,雪氷,植生・都市キャノピーにおける問題等多岐にわたっている。放射に関してはこれまで和文の文献が少なかった。本書により,気象・気候学を専攻とする大学院生やより広い分野の研究者が少しでも放射の問題に興味を持ち,自らの研究に活かして頂けるものと期待する。
【目次】
- 第1章 GCMにおける放射過程のモデル化
- 第2章 3次元大気中の放射伝達
- 第3章 大気海洋結合系におけるベクトル放射伝達計算
- 第4章 非線形粒子による電磁波の散乱計算
- 第5章 積雪内の放射計算
- 第6章 植生キャノピーの放射計算
- 第7章 都市キャノピーの放射計算
【編集】早坂忠裕、岩渕信弘
192ページ、2011年10月 日発行
【価格】会員:3,000円、会員外4,400円
気象研究ノート編集委員会