「宇宙基本計画(案)」に関する見解

「宇宙基本計画(案)」に関する見解を掲載しました。

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「宇宙基本計画(案)」に関する見解

 

2012年12月25日

社団法人日本気象学会理事長     新野 宏

平成24年12月5日、内閣官房宇宙開発戦略本部事務局ならびに内閣府宇宙戦略室より、「宇宙基本計画(案)」に関する意見募集が開始されました。これは、内閣府設置法の改正により、内閣府が我が国の宇宙開発利用の司令塔を担うこととなり宇宙戦略室及び宇宙政策委員会が設置されたこと、また、独立行政法人宇宙研究開発機構(JAXA)法の改正により、JAXAの中期目標の策定に当たっては宇宙基本計画に基づくこととなったため、現行の宇宙基本計画を見直し、今後10年間程度を視野に置いた平成25年度からの5年間を対象とした新たな宇宙基本計画を策定することとし、今般、宇宙政策委員会の審議を経て、新たな宇宙基本計画案を取りまとめ広く国民から意見を募集するというものです。これに対して、気象学会として下記のような見解を表明しました。

今般意見募集が開始された「宇宙基本計画(案)」に関し、社団法人日本気象学会(以下「気象学会」)の見解を以下に表明します。なお、本見解は気象学会の学術委員会によってまとめられ、気象学会の理事会で承認されたものです。

 

  1. 気象学会に所属する学会員の気象学研究の対象は、学術としての気象学に加え、天気予報や防災・減災に関わる事項に限られることなく、人類の生存基盤である地球環境(例えば、地球温暖化問題など)、半球規模の越境大気汚染、局地規模の自然環境など広範の国民的課題にわたっており、これらの研究はすべて国民の安心安全の確保に寄与することを目指しています。
  2. 今般、意見募集が開始された「宇宙基本計画(案)」(第3章)において記載されているところの気象衛星「ひまわり」や、水循環変動観測衛星「しずく」、温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」などの地球観測衛星で得られるデータは、これらの研究の推進において不可欠のものであり、地球全体を均一な特性で観測する地球観測衛星による大気・海洋・陸域などの地球環境のリモートセンシングの有効性・重要性は将来にわたって増大することはあっても、決して減ずることはありません。また、これまでの地球観測衛星データを用いた科学的成果が、防災その他へのリモートセンシングデータの利活用に大きく貢献してきたことは動かし難い事実です。気象学会では、地球観測衛星の重要性を考慮し、2011年8月1日にも当時の宇宙開発担当大臣あてに「地球観測衛星の開発について」という要望書を提出しております。
  3. 「宇宙基本計画(案)」(第3章3-1B(2))に記された、「特に、地球環境観測衛星では、国際協力を含む様々なプロジェクトが構想段階のものを含め計画されており、我が国の環境政策への貢献の観点を含め、施策の選択と集中が重要である。」という点について否定するものではありません。
  4. しかしながら、第3章3-1B(3)「今後の10年程度の目標」として、気象衛星の継続的運用は挙げられているものの、リモートセンシング衛星の活用例として「地図作成、資源探査、農林漁業への活用、災害監視等」の記述があるのみで、地球環境観測の重要性に関する記述が無いことはリモートセンシング衛星の1つの重要な機能が欠落していると言わざるを得ません。
  5. 特に、第3章3-1B(4)「5年間の開発利用計画」においては、「ASEAN防災ネットワーク構想構築」のみに特化した具体的な記述がなされており、地球環境観測に関する中期的な展望を欠いたリモートセンシング衛星の将来計画となっています。
  6. 地球環境観測による地球システムに関する科学的知見の獲得と、地球温暖化問題を始めとする国境を越えるさまざまな環境問題解決への道筋の提示は、我が国の環境政策への貢献のみならず、国際的な環境行政への影響力を強化することにも寄与します。
  7. 以上のことから、地球環境観測にかかるリモートセンシング衛星の開発利用に関して、我が国としてより積極的な取り組みがなされるよう、「宇宙基本計画(案)」の修正が必要であると考えます。

 

*気象学会は、気象学の研究を盛んにし,その進歩をはかり,国内および国外の関係学会と協力して,学術文化の発達に寄与することを目的として設立されたものであり、国内外の約3800名の会員からなる学術団体として活動を行っています。