有期雇用研究者の雇用環境改善のための要請─男女共同参画およびポスドク問題の視点から─

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関連: 人材育成・男女共同参画委員会


 2014年6月13日

有期雇用研究者の雇用環境改善のための要請
─男女共同参画およびポスドク問題の視点から─

 公益社団法人日本気象学会

理事長 新野   宏

1. はじめに

2013年4月施行の改正労働契約法(以下、改正法)は、労働者の雇用の安定化を図るために導入されたものである。しかし、大学等研究機関(以下、大学等)における研究活動や若手研究者育成の理念とは整合しない面があり、優秀な若手研究者に対する雇用状況の悪化と研究意欲の低下、ひいては日本の学術研究の発展の阻害が危惧された。このため、「研究開発力強化法」の改正により、有期労働契約が反復更新された場合に、申出により無期契約に転換できる雇用期間が、大学等の研究者等については例外的に5年から10年に延長されることになった。この改正によって若手に多い有期雇用研究者の不安定な雇用環境には一定の改善が図られたが、未解決の重要課題、とりわけ、男女共同参画の視点からの深刻で本質的な問題が残されている。本要請は、これらの問題の解決に向けて、さらなる制度改正を求めるものである。

2. 現状と問題点

2.1 男女共同参画の視点からの問題

改正法で特に問題と考えられるのは、男女共同参画の観点からの不平等の助長である。改正法施行以前では、雇用契約期間に産前産後休業(産休)、育児休業(育休)を取得した場合、この期間は雇用期間外の扱いにする研究機関も少なくなかった。ところが、この改正法では、産休や育休も雇用契約期間の一部と位置づけられている。研究機関によっては産休や育休を評価期間の一部とする場合さえある。これは、特に若手女性研究者にとって雇用条件の劣化である。また、育休や産休を取得する可能性を考えて、若手女性研究者の雇用を敬遠する人事が行われる危険性がある。さらに最近増加しつつある男性の育休取得率も低下する可能性がある。このように、改正法は、男女共同参画の視点からは大きな問題を内包している。実際、若手研究者が産休・育休を取得して退職を促された例や、任期の開始および終了時期の育休取得が不可能となり退職せざるを得なかった例などが見られる。この問題は、税金を投じて育てた優秀な人材から、学術を通して社会に貢献する機会を奪うこととなり、社会全体にとっても損失である。同様の課題は、高齢社会で顕在化している介護休業の取得にも存在している。

2.2  ポスドク研究者の雇用についての問題(ポスドク問題)

日本の研究を支える、若手を中心とした多くの有期雇用のポスドク研究者は、社会的地位が低く不安定な労働環境下に置かれている。このいわゆる「ポスドク問題」は、研究開発力強化法改正等が行われてもなお、未解決の問題である。ほとんどの大学等研究機関においては、無期雇用契約の教員・研究者の定員が削減され続けている。したがって、研究開発力強化法改正の適用によって10年の有期雇用ののちに無期雇用契約に移行するケースは少なく、ほとんどの有期雇用者は無期雇用契約の権利が生じる前に雇い止めとなる可能性が高い。このような状況は、若手を中心としたポスドク研究者の研究意欲を抑え、若手のうちに培うべき分野全体を俯瞰する能力を伸ばす機会を減らし、大学院生から見た時の学術分野の魅力を低下させている。このように、ポスドク問題は、日本の学術分野の将来を担うべき人材育成という視点からも大きな課題となっている。

 3.要請

以上のように、改正法は、研究開発力強化法の改正にもかかわらず、男女共同参画およびポスドク問題の視点から有期雇用研究者の雇用環境に関する大きな問題を含んでいる。これらの問題の解決のため、以下の要請を行う。

①男女共同参画の推進のために、産休・育休・介護休業を取得する有期雇用研究者に対して研究雇用環境が改善されるよう以下の施策が必要である。

  • ž休業期間を労働契約法第18条の通算契約期間に含めない法改正
  • 休業期間を考慮した研究者の業績評価
  • プロジェクト雇用研究者の休業取得により生じるプロジェクトの計画変更の容認
  • 休業期間の一時的な代替研究員の雇用制度とサポート制度の創設
  • 育児や介護のためフルタイム勤務が難しい研究者の裁量労働制や在宅勤務の活用、短時間勤務制度の拡大・柔軟化の検討

②ポスドク問題は、依然として本質的な解決には至っていない。我が国の学術を牽引する有期雇用研究者の生活安定と社会的地位向上のため、無期雇用契約の教員・研究員の定員確保と、若手研究者のこれらのポストへの積極的な登用を求める。

以上、関係各方面の真摯な努力をお願いする。