2018年公開気象講演会『台風の強度~台風災害の軽減に向けた航空機観測~』
日時: 2018年5月19日(土)(大会第4日目)13:30~17:15
場所: つくば国際会議場 大会議場101 (大会A会場)
主催: 日本気象学会 教育と普及委員会
後援: 一般社団法人日本気象予報士会
参加費: 無料
参加者アンケート(2018年7月19日掲載)
今回は「台風の強度」について航空機を用いた取り組みをテーマとして取り上げます。台風は毎年のように大きな災害をもたらし、日本の風水害の大きな原因となっています。さらに地球温暖化に伴い台風がますます強くなることが予想され、日本における台風のリスクは増大しています。それにもかかわらず、台風の強度の推定値には誤差が大きく、また強度予測には十分な改善がみられません。これらの問題を解決し、将来、台風による災害のない安全な社会を作っていくためには、航空機を用いた台風の直接観測をおいてほかにはありません。今回の公開講演会では、台風の強度をどのように推定し、予報するのかについて最先端の技術を詳しくかつ分かりやすく説明し、航空機を用いて台風を直接観測することで上記の問題を解決していこうとする最近の取り組みを紹介します。航空機で超大型台風の眼に入ったときの、「天空の城ラピュタ」を彷彿とさせる壮大な眼の中の風景もお楽しみください。
趣旨説明 坪木 和久(名古屋大学)
1.台風の強度を測るには 中澤 哲夫(気象庁気象研究所)
2.台風の予報はいま? 伊藤 耕介(琉球大学)
3.台風の観測機器 清水 健作(明星電気株式会社)
4.台風の航空機観測 山田 広幸(琉球大学)
■ 講演要旨
1.台風の強度を測るには 中澤 哲夫(気象庁気象研究所)
台風が日本の南海上で発生すると、テレビなどで、「台風第◯◯号が、マリアナ諸島で発生しました。中心気圧は1000hPa、最大風速は、18m/sです」などという放送が流れます。でも、この中心気圧や最大風速、どのように求めているか、ご存知ですか?
この公開気象講演会では、台風の強度、すなわち、中心気圧や最大風速、さらには、強風/暴風半径などを、どのように求めるのか、その方法や問題点·困難点などについて、基本的なところを解説します。
まず、全体像をつかんでおきましょう。大きく分けて、航空機による直接観測、航空機搭載センサーによる観測、地球観測衛星搭載センサーによる推定、静止気象衛星による推定の四種類の方法があります。直接観測は現在のところ、航空機によるドロップゾンデ観測だけです。航空機に搭載されたドップラーレーダーなども直接観測に近いものと考えてもいいかもしれません。これらの直接観測は、台風の強度を精度よく求めることができる利点がありますが、台風中心まで行って観測を行う必要がある、機体強度に制約があるなど、観測の実施にあたっては多くの課題があります。その一方で、衛星からの推定は、宇宙からの観測なので、安全ではあるものの、強度を直接求めるわけでないので、推定精度が高くない、といった問題点を持っています。
ですから、一番いい方法としては、衛星などからの間接推定だけでなく、航空機による直接観測も行って、両者を併用して、間接推定のデータがどの程度正しいかを見極めつつ、その推定精度を高めて行くことが必要と考えております。
2.台風の予報はいま? 伊藤 耕介(琉球大学)
気候変動に伴って、いままでにない強さの台風が、日本をはじめとする北西太平洋地域を襲うことが懸念されています。正確な台風の予報は防災·減災につなげるための基礎情報として非常に重要ですが、近年、強度予報が昔に比べて難しくなっていることが明らかとなってきました。
本講演では、台風予報をとりまく背景や予報精度向上への効果が期待される近年の取り組みについて、わかりやすく解説します。
3.台風の観測機器 清水 健作(明星電気株式会社)
台風発生時の多くの人たちの関心を集める情報の1つに「台風の中心気圧」があると思います。これがどのように観測されているかご存知でしょうか?
日本から離れた海上の台風を観測しようとした場合、10mを超えるよう波浪の中船を用いることは困難であり、航空機による観測が唯一の手段といっても過言ではありません。戦後、JTWC(米軍)による継続的な台風の直接観測が行われていましたが、やはり安全上の理由とコストの問題で1987年以降は実施されていません。このため、現在、台風の中心気圧はドボラック法という気象衛星から得られた雲画像を元に推定する手法で得られています。つまり直測している訳ではないのです。しかしながら、地球温暖化に伴い過去と比べてより強い台風の発生が懸念される昨今、従来のドボラック法でどこまで対応できるか検証していく必要があります。
今回、新たに開発されたドロップゾンデ観測システムは、比較的安全な台風の上を飛行しながら計測しますが、高い高度を維持する必要から、航空機の速度は800㎞/h程となり、ドロップゾンデが高度13kmから着水するまで15分間に水平距離で200㎞も離れてしまいます。そこで、効率的な観測を実現するため、最大4個のドロップゾンデを同時に運用できるシステムを開発し、50㎞間隔での台風の熱力学的構造及び風向風速を計測できるようにしました。本公演では、このシステムの説明を行うとともに技術的観点から見た観測の難しさについてお話しできればと考えております。
4.台風の航空機観測 山田 広幸(琉球大学)
昨年10月に実施した台風第21号の航空機ドロップゾンデ観測の概要を紹介するとともに、民間のジェット機を使って危険を冒すことなく台風の目に進入する方法について考えてみます。台風のなかを飛行する上で大きな障壁となるのは、強い乱気流に耐える特別仕様の航空機と、訓練を受けた乗組員を継続して確保することです。台風の風は高度1km近くで最も強いので、米国が継続して行う低高度の飛行には多大な労力と費用を要します。一方、台風の風は上空ほど弱いので、雲の上端近くを飛行すれば乱気流のリスクは減ります。また、航空機に搭載された気象レーダーを用いて着氷のリスクがある強い雨域を避けることができれば、民間の航空機でも台風の中心に進入できる可能性があります。台風第21号の観測飛行では、高度4万3千フィート(約13.8km)の上空を飛行し、気象レーダーを見がら操縦士と進路を検討しつつ、台風の目の中に3回も進入することに成功しました。この飛行で強い乱気流に一度も遭遇しなかったとが特筆されますが、たまたま幸運が重なっただけの可能性もまだ否定できません。台風の目の中の「お宝映像」をご覧頂きながら、風の航空機観測の将来像について、皆さんと一緒に考える機会になればと考えております。
コンビーナー:坪木 和久(名古屋大学)
司会・進行:尾崎 里奈(防災気象PRO株式会社 TeamSABOTEN・気象解説者)
□ 過去の公開気象講演会
2021年 「命を守る身近な気象情報」
2019年 「新元号を迎えて~平成の30年間を振り返り、新時代の気象災害に備える~」
2018年 「台風の強度~台風災害の軽減に向けた航空機観測~」
2017年 「「大雨災害」に備える」
2016年 「台風災害 ~台風列島でどう生き延びるのか?~」
2015年 「気象情報のビッグデータ時代の幕開け」
2014年 「局地風の世界」
2013年 「将来の再生可能エネルギーと気象」
2012年 「地球温暖化問題における科学者の社会的役割」
2011年 「航空安全のための気象学」
2010年 「防災情報の活かし方を考える」
2009年 「数値予報の過去・現在・未来~数値予報現業運用開始50周年記念~」
2008年 「地球温暖化とその対策 ~ノーベル平和賞と横浜市~」
2007年 「災害をもたらす気象~大雨・竜巻・台風~」