気象研究ノート第 222 号 「北極の気象と海氷」

 現在、多くの気候モデルの予測を越えて北極海の海氷減少は進行しています。北極の気象・海洋の変動は、シロクマなど北極圏を住処とする生態系への大きな脅威となっているばかりではなく、全世界的にさまざまな影響を及ぼす可能性があります。このような背景を基に、本書は北極域の気候システムに関するこれまでの研究成果をレビューし、将来の研究発展につなげることを目的として企画されました。

本書は全12章から構成され、各章が独立していますので、読者は興味を引いた章から読んでもらってかまいません。第 1 章から第 4 章までは、北極探検時代から現代までの北極観測の歴史、北極の気候、北極に特徴的に現れる層雲や低気圧、そして北極海の海洋循環についてまとめています。第 5 章から第 7 章では、衛星観測からみた北極域の雲、海氷、積雪及びエアロゾルの変動とその要因について解説しています。北極海の海氷の変動の原因はいろいろありますが、海洋変動から海氷変動への影響に関しては第 8 章で、大気循環から海氷への影響に関しては第 9 章で、逆に海氷変動が大気循環に与える影響については第 10 章で解説しました。これらの研究の基礎となる海氷域における気象観測について第 11章でまとめ、最終章では気候モデルによる北極域及び北極海の気候変化について述べています。

本書を通じて、一人でも多くの方が北極域に関心を持ち、気候システムに果たす北極域の役割と重要性を知っていただければ幸いです。

【目次】

  • 1 章 北極探検から地球温暖化観測最前線へ
  • 2 章 北極の気候と放射
  • 3 章 北極の雲・降水システム
  • 4 章 北極海の海洋物理学
  • 5 章 光学センサが捉えた雲および積雪域の変動
  • 6 章 衛星による北極海海氷観測
  • 7 章 雪氷中の光吸収性エアロゾル
  • 8 章 北極海の海洋変動と海氷変動
  • 9 章 北極海の海氷減少に影響を及ぼす北極圏の大気大循環の役割
  • 10 章 夏季北極海の海氷域減少がもたらす冬季ユーラシアの低温
  • 11 章 海氷減少域における気象観測のあり方
  • 12 章 北極における将来の気候変化と海洋酸性化

編集:山崎孝治、藤吉康志
170 ページ、2011 7 1 日発行
【価格】会員:3,300 円、会員外 4,800円

気象研究ノート編集委員会