日時:2025年2月7日(金)13時30分~17時30分
会場:気象庁会議室+オンライン(Zoomウェビナー)併用
~参加申込について~
締切:2025年2月2日(日)
申込方法:参加申込ページ(https://forms.office.com/r/nBuskJasGD)にて必要事項を記入し,「現地参加」又は「オンライン参加」を選択の上,お申し込みください.詳細は参加申込ページ内の記載をご確認ください.
参加方法:「現地参加」又は「オンライン参加」を選択できます(現地参加は先着順).詳細は参加申込ページ内の記載及び申込後に事務局から送付する案内メールをご確認の上ご参加ください.
前回の研究会では,1991年6月27日の雲仙岳噴火による火山灰の影響でFL370で発生したと報告されているエンジン停止事例について,PUFFモデルを用いた火山灰拡散シミュレーションにより,その可能性がほぼ無いことを発表した.その際,比較的新しい考え方として,DEvACと呼ばれる火山灰のエンジンへの評価尺度を用いて検証を行なっていた.アイスランドの火山噴火以来,エンジン停止に至る火山灰濃度の目安として2mg/m3等の閾値は知られるようになったが,最近はそれだけでなく積算の火山灰曝露量も重要であることが指摘されており,その評価尺度がDEvACである.今回の発表では上記のエンジン停止事例について,PUFFによる火山灰拡散シミュレーションの計算結果と,DEvACを用いたエンジンへの影響評価について,エンジン停止の可能性がほぼ無いとの結論に至った過程をより詳しく解説する.
2.手動で描画した前線と客観前線の比較検討について
天気図上に描画される前線は異なる気団の境界であり,気象現象が急激に変わるため天気の悪化の指標となる.手動で描画する前線(以降、手動前線)は人的な負担が多いため,客観的またはAIを用いた手法が多く発表されている.手動前線を教師としてAI手法を用いた前線は人間の癖も含まれるため,重要な小規模前線が考慮されない可能性もある.本研究は,手動前線と本解析による客観前線の位置の比較を行い,その精度検証を行う.
使用データは2010年から2022年の9時の気象庁GSM解析値,気象衛星データ及び日々の天気図を使用する.
客観前線はThermal Front Parameterを相当温位から求め,暖気移流域・寒気移流域を特定して位置を求めた.また,求めた客観前線と手動前線の距離を求め比較を行った.下層の気圧面で比較した結果,850hPa面での客観前線位置が手動前線と最も誤差が小さかった.さらに,他の短い客観前線は雲域と対応が良く,小規模な現象の特定にも使用できることが考えられた.
商用ジェット旅客機の巡航高度の2倍(高度18-24 km),下部成層圏の「弱風層」と呼ばれる領域に,無人航空機を滞空させて携帯電話の基地局や画像サービス等に活用するHAPS計画がある.同領域は,亜熱帯ジェットや成層圏極夜ジェットの周辺に比べて,平均的な水平風速が弱いため,推力が限られたHAPSの滞空にとって有利である反面,亜熱帯ジェット上部の高鉛直シアー領域に近く,山岳波のクリティカル・レベルにも近いなど,乱流生成の条件が整いやすい危険な領域でもある.何より,商用機が飛ばない未踏領域であるため,乱流や重力波に関する観測的な知見が不足しており,未開拓領域としての魅力を有している.本講演では,NASA高高度観測機が上部対流圏・下部成層圏で観測した乱流の背景を,日本域領域再解析RRJ-ClimCORE(試供版)を用いて調べた事例研究について報告する.
4.仙台ウィンドプロファイラが観測した山岳波に伴う強い鉛直流と乱流
2024年5月17日,寒冷渦が北海道西部を通過中,その南象限の対流圏では西風が強まり,衛星画像には奥羽山脈風下の広範囲に波状雲が現れた.
この日の09:40~11:40JSTにおいて仙台のウィンドプロファイラは,後方散乱が得られた高度約5000~15000ftにおいて,持続時間が約1時間の強い上昇流(約7m/s)とそれに続く強い下降流(約7m/s)を観測した.また相対的に大きなスペクトル幅がこの高度帯の下部に分布し,その上端高度は上昇流が現れた時間帯に約7000ftから約11000ftに緩やかに上昇した後,下降流が現れた時間帯に約7000ftまで下降している.
この強い鉛直流が発生した時間帯において仙台空港周辺で3機の旅客機が上昇中5000~9000ftの高度でModerate Turbulenceへの遭遇を報告している.なお,仙台空港のMETARによると山岳波に伴う積雲の雲低高度は5000ftであった.
亜熱帯ジェット気流の南側で鉛直シアーが小さくても発生する乱気流について統計調査及び事例解析を実施した.その結果,この乱気流は亜熱帯気団内において鉛直シアーは小さいが温位の鉛直変化が小さな層で発生していることが分かり,①亜熱帯ジェット気流の南側,②温位の鉛直変化率Δθ/Δz≦1.0[K/1000ft],③鉛直シアーVWS≦6[kt/1000ft]の条件を満たす並以上の乱気流について,国内悪天解析図(ABJP)では「LSL」を乱気流の発生場所として使用することとし,2019年7月4日から運用を開始した.
さらに5年が経過し,過去5年間のABJPを使用して連続してLSLでの乱気流を解析した事例を抽出し,統計調査及び事例解析を実施した.その結果,一連のLSLでの並以上の乱気流報告が6通以上あった事例については,リチャードソン数Ri≦0.5の領域と対応がよかった.このことから,Ri≦0.5かつVWS≦6[kt/1000ft]の予想値である程度の予想が可能であると判断し,2024年11月6日より国内悪天予想図(FBJP)においてLSLでの乱気流予想を開始した.
シンガポール航空の乱気流事故をきっかけに航空機運航に対する乱気流対策に注目が集まっている.航空会社においても各種対策を進めて最善策を講じているが,近年,気候変動の影響でジェット気流が変化し,晴天乱気流の予測の難しさが増加している実態もあり,引き続き現象の理解と予測精度のさらなる向上が望まれる.乱気流予測には気象現象としての不確実性が伴うため,多様な予測情報を比較して活用するべく,予測精度向上の取り組みとしてAIによる乱気流予測システムを慶應義塾大学とANAグループの共同で研究開発した.今回開発した乱気流AI予測モデルを当社グループ会社でトライアル運用を実施した結果について報告する.
7.航空交通管制用信号(SSR Mode S/ADS-B)を用いた気象観測システムの構築,商用航空機が飛行中に計測した気象データの一部は,ACARS経由で運航会社で受信され,AMDAR(航空機自動実況気象通報式)にて各国気象機関に配信されているが,LCC等では対応した機材を持たない場合も多い.一方で,航空交通管制に用いられるADS-Bは,義務化には至っていないがほぼ全ての商用航空機に装備されており,SSR Mode S質問信号に対して多様な運航情報を返答(放送)している.当該情報を独自に受信し適切に処理することで稠密な気温や風向風速の分布を得ることができるため,新たな気象観測システムとしての利用可能性が高い.当研究グループでは羽田空港や那覇空港の周辺ほか,ジャカルタやデンパサールなどインドネシアの空港周辺に受信機を展開し,継続的に受信データを解析しており,現業ゾンデ観測等による比較検証結果や試験公開中の解析データセットについて,その開発経緯や進捗状況について報告する.
8.コックピット気象システムを用いた気象情報の利活用気象観測および予報技術の進展と通信技術の革新により,高解像度・高頻度の気象レーダーや衛星画像がスマートフォンで容易にアクセス可能となった.しかし,航空機運航ではコックピット内の通信環境に課題があり,リアルタイムでの気象情報取得が困難である.この課題を解決するため,ZIPAIRはエムティーアイ社の気象情報アプリ3D ARVIに「IN FLIGHT モード」を実装し,2024年4月から運航での利用を開始した.さらに,JAXAの衛星全球降水マップ(GSMaP)も3D ARVIで利用可能とし,パイロットが降水域や被雷可能性域をタイムリーかつ直感的に把握できるようにした.これにより,航空機運航の安全性と快適性の向上が期待される.本講演では,実運航での利用現状と将来展望について紹介する.