提出内容

受付番号 201503280000337434
提出日時 2015年03月28日10時43分

案件番号 198252321
案件名 原子力災害対策指針(改定原案)及び原子力災害対策特別措置法に基づき原子力防災管理者が通報すべき事象等に関する規則の一部を改正する規則(案)に対する意見募集について
所管府省・部局名等 原子力規制委員会原子力規制庁長官官房放射線防護グループ原子力災害対策・核物質防護課
意見・情報受付開始日 2015年03月05日
意見・情報受付締切日 2015年04月03日

郵便番号 100-0004
住所 東京都千代田区大手町1-3-4 気象庁内
氏名 公益社団法人日本気象学会理事会、岩崎俊樹
連絡先電話番号
連絡先メールアドレス

提出意見 原子力災害対策指針及び関係する原子力規制委員会規則の改正に関する意見

公益社団法人日本気象学会理事会

平成27年3月4日に貴庁より提示のあった標記改正案について、日本気象学会理事会として意見を表明する。今回の改正では、平成26年10月8日付の貴庁の文書に基づき、SPEEDIの予測を(ほかの最先端の大気拡散モデルの予測も含めて)緊急時には利用しないこととしている。しかし、日本気象学会理事会では、平成23年3月の東京電力福島第一原子力発電所事故(以下、福島事故)においても、避難住民の被ばくを防ぐ上で、SPEEDI等の数値予測情報は有効に利用できたはずであるという調査結果を得ており、「緊急時には、SPEEDI等の数値予測モデルを有効に活用すべき」と考えている。以下に、その理由を述べる。

1. 防災機関は、緊急時、事故に関連するあらゆる情報を収集・精査し、状況の変化に応じて最善の策を選択できるように準備すべきである。緊急時モニタリング体制の整備は重要である。しかし、その整備が進んでもモニタリングでは計測地点の過去から現在までの実況しか把握できない。地上のモニタリングでは、上空を通過する放射性物質(これも降水があれば地上に沈着する)を把握できない。原子力災害時に住民の計画的な避難等を実施するには、退避行動中の被ばくの危険を予想しておく必要がある。一方、数値予測モデルは、単位量放出(放出率一定)の条件で得られた相対値であっても、退避行動の決定に必要な退避行動時間帯の放射性物質の空間分布に関する予測情報を与える。モニタリングと予測情報の両者を最大限活用し、放射性物質の拡散状況を分析し、不確実性も含めて社会と関係防災機関・住民に情報提供することにより、被ばく被害を最小限に抑える体制を整備すべきである。

2. 原子力災害で避けるべき放射能汚染の「見逃し」を減らすため、数値予測を利用すべきである。別添3(3月4日、第60回、原子力規制委員会資料1)では「予測結果が現実と異なる可能性が常にある中で、避難行動中に放射性物質が放出した場合、かえって被ばく線量が増大する危険性がある。」と指摘されている。確かに数値予測は不確実性を含んでいる。予測の過誤には2種類あり、放射能汚染を予測できなかった場合を「見逃し」、予測した放射能汚染が起こらなかった場合を「から振り」と呼ぶ。原子力災害でもっとも避けなければならないのは、放射能汚染の「見逃し」である。数値予測を利用する際に、汚染地域と汚染時間帯の予測の幅に余裕をもたせて考えれば、「から振り」は増えるものの「見逃し」は大幅に減らすことができる。モニタリングを併用し、数値モデルの予測を不確実性を考慮して活用すれば、別添3の指摘は当たらない。

3. 想定を超えるような事態にも対処できるようにするためにも、大気拡散の数値モデルによる予測を実施すべきである。別添3では、「施設の状態に基づき、放射性物質の放出の前から、PAZ内の避難やUPZ内の屋内退避等を行うこととしており、予防的な防護措置を講じることとしていることから、SPEEDIによる予測結果を用いる必要がありません。」としている。想定している防護措置が機能するためには、事故の際に、施設の内部の状態(事故の状況)が正確に把握され、放出する時刻が事前に予測され、想定された時間内に避難が完了する、などの条件が必要である。しかしながら、福島事故でもそうであったように、実際にこのような条件をすべてクリアすることは大変難しい。事故が拡大する事態にも対処できるように、大気拡散の数値モデルによる予測を平時から常時実施すべきである。想定外の事態への適応能力を高めることは福島事故の重要な教訓と考える。

以上の考えは、日本気象学会「原子力関連施設の事故に伴う放射性物質の大気拡散に関する作業部会」の調査報告「原子力関連施設の事故に伴う放射性物質の大気拡散に関する数値予測情報の活用策について」(平成26年12月17日付)に示されている。この報告では、正確な放出情報が得られない状況を想定し、単位量放出に基づく予測資料の利用法を具体的に論じている。また、この報告に基づき、日本気象学会は「原子力関連施設の事故に伴う放射性物質の大気拡散監視・予測技術の強化に関する提言」(同日付)も発表した。是非ご検討いただきたい。

提言:  http://www.metsoc.jp/2014/12/17/2467

活用策: http://www.metsoc.jp/default/wp-content/uploads/2014/12/teigen-201412.pdf

連絡先:理事・「原子力関連施設の事故に伴う放射性物質拡散に関する作業部会」部会長 岩崎俊樹(東北大学大学院理学研究科)