第45回風に関するシンポジウム
プログラム

[共催]

土木学会,日本海洋学会,日本風工学会,日本気象学会(幹事学会),日本建築学会,日本航空宇宙学会,日本地震学会,日本地理学会,日本農業気象学会,日本流体力学会,日本林学会(五十音順)

[開催日時]

1998年12月22日(火)13:00〜16:45.終了後,懇親会を開催予定.

[会場]

東京大学海洋研究所(東京都中野区)
新宿駅西口より京王バス(永福町,中野車庫または佼正会聖堂前ゆき)弥生町3丁目または東大附属前下車徒歩3分,
あるいは地下鉄丸の内線(中野坂上乗換)中野新橋下車徒歩10分.
地図はこちら

[参加費]

無料(懇親会は別途).

[講演題目]

(質疑含めて1件20分;○は講演者)
13:00 開会

13:05〜13:25 藤部文昭(気象研):台風に伴う地上風分布のメソスケールの特徴

13:25〜13:45 田中恵信(気象研):ドップラーレーダーで捕らえた台風風速場のメソスケール変動

13:45〜14:05 ○Gang FU, Hiroshi NIINO, Ryuji KIMURA(東大・海洋研), Teruyuki KATO(気象研):An isolated polar low development over the Japan Sea on 21 January 1997

14:05〜14:25 佐川正人(法大・地理):知床半島の強風

14:25〜14:45 細見卓也(気象庁・数値予報):気象庁数値予報モデルでの風の予報

(休憩)

15:05〜15:25 羽田野祐子(理化学研):風によるチェルノブイリの放射性エアロゾルの挙動とその応用

15:25〜15:45 ○日下博幸(電力中研),木村富士男(筑波大),平口博丸・水鳥雅文(電力中研):首都圏の土地利用変化に伴う海風前線の変化

15:45〜16:05 ○原 智宏(九大・工),大屋裕二(九大・応力研):海風に伴う内部境界層の発達のシミュレーション

16:05〜16:25 ○吉門 洋(資源環境研),魚崎耕平(日本気象協会):濃尾平野の冬季の冷気流−関東平野と比べて−

16:25〜16:45 鈴木力英(地球フロンティア):千葉県の風の気候学的特徴

17:00〜 懇親会(場所・参加費未定)


講演要旨

1.藤部文昭(気象研):台風に伴う地上風分布のメソスケールの特徴
台風中心域の地上風分布は,単純な渦巻ではなくもっと複雑であることが多い。その実例として,九州を通った台風9119の解析結果や,それ以前の台風の調査報告などを紹介する。また,台風9807についての予備的な解析結果を示し,上記との比較検討を行う予定である。

2.田中恵信(気象研):ドップラーレーダーで捕らえた台風風速場のメソスケール変動
台風9617号(96年9月22日)は関東に接近し,成田空港のドップラーレーダーで台風内の風速場のメソスケール変動が観測された。
反射強度の強いところは風速が強く,反射強度の弱いところは風速が弱いという変動が波動状に並んでいた。波の振幅は5〜10m/s,波長は10〜20kmであった。この台風のレインバンドは,風や降水のメソスケール変動が対になって起るという構造を持っていた。

3.○Gang FU, Hiroshi NIINO, Ryuji KIMURA(東大・海洋研), Teruyuki KATO(気象研):An isolated polar low development over the Japan Sea on 21 January 1997
  An isolated remarkable polar low was observed over the Japan Sea at 20UTC on 21 January 1997. The purpose of the present study is to document its spatial and temporal structure, and to study its developing mechanism based on the observation analyses and numerical simulations.
  The satellite and Sapporo radar observations showed that, initially, an E-W orientation cloud band formed within a convergence line off the west coast of Hokkaido Islands. Its west part rolled up cyclonically while moving southwestward. Around 09UTC 21, the cloud size increased significantly, and the cloud shape changed from the comma- to spiral-shape. Around 14UTC, the polar low changed its motion to the southeast direction and approached the Japan Islands. Around 20UTC, it reached the mature stage. It showed a typical spiral-shaped cloud pattern, and a clear "eye'' structure. At 2230UTC, it made a landfall on the Niigata Prefecture and lost its "eye'' structure gradually.
  The analysis shows that this polar low is a relatively shallow system: its maximum vorticity of 3.5×10-4s-1 was located at 900hPa, and a "warm core'' structure is found at that level near the low center.
  A 24h prediction of RSM (Regional Spectral Model) starting from 00UTC 21 reproduced quite well the position and intensity of the polar low and the initial wrapping of the west part of an E-W orientation vorticity zone. The energy analysis within a relatively small rectangular domain (660×300km) surrounding the polar low center indicates that the eddy kinetic energy increased mainly due to the conversions from the horizontal shear and the mean available potential energy through convection.
  A simulation using MRI-NHM (Non-Hydrostatic Model of Meteorological Research Institute) nested into RSM reproduced the west part wrapping of an E-W orientation vortex, the spiral-shaped pattern and the "eye'' structure surprisingly well. The "eye'' was associated with a significant downdraft almost free of cloud, and had a warm core. The thermodynamic budget analysis indicates that this warm core is mainly caused by the adiabatic heating due to the downdraft. The vertical profiles of the area-mean condensational diabatic heating rate, the vertical velocity, the convergence of the moisture flux and the circulation within a 50km square area surrounding the low center show that the amplification mechanism of the polar low is not inconsistent with the "cooperative intensification mechanism" (e.g., Ooyama, 1982).

4.佐川正人(法大・地理):知床半島の強風
本シンポジウムでは知床半島に吹走する強風について,AMeDAS等の既存の気象観測資料と,独自に設置した気象観測地点の資料等を用いて解析した結果を報告する.独自に観測を行った期間は1997年11月25日〜1998年4月30日である.この期間内に強風の吹走した事例は十数例あり,強風吹走地点が半島のオホーツク海側にある場合と根室海峡側にある場合とでは,地上気圧配置に違いが見受けられた.これを骨子として当日報告を行う.

5.細見卓也(気象庁・数値予報):気象庁数値予報モデルでの風の予報
現在,現業運用されている気象庁領域モデル(RSM:解像度20km)の予報結果から,アメダス等の観測データを使って風の統計検証を行ったので,陸上風の日変化の特徴などを報告する。また,開発中のメソ数値予報モデル(MSM:解像度10km)を用いて北陸地方でのフェーン現象についての予報特性について調査したので,これらの結果について報告する。

6.羽田野祐子(理化学研):風によるチェルノブイリの放射性エアロゾルの挙動とその応用
風速の統計的性質(特に時間相関)がエアロゾルの移流拡散に及ぼす影響を調べる。我々はこの性質をとり入れた拡散のモデルを提案し,様々なエアロゾルに適用した。まず,チェルノブイリ発電所事故による汚染塵の風による拡散を調べたところ,我々のモデルは事故以来10年以上にわたる大気中放射性核種濃度のデータをよく再現することがわかった。それだけでなく,また北極海上空のエアロゾル濃度の観測データもモデルの予測ともよく一致することが示された。最後に,以上のような風の性質を砂漠の砂丘の形成に応用した例も示す。

7.○日下博幸(電力中研),木村富士男(筑波大),平口博丸・水鳥雅文(電力中研):首都圏の土地利用変化に伴う海風前線の変化
 1985年の土地利用データと1900年頃の土地利用データを用いて,関東地方の風系の再現計算を行った。計算対象日は移動性高気圧に覆われた地衡風速の弱い晴天夏日とした。前者のケースをCase01,後者のケースをCase03として以下に結果を述べる。
 Case01とCase03の風系の比較をおこなった結果,都市の拡大に伴い都市の境界付近で,海風の収束が強まることがわかった。Case01では,北関東は東風に覆われているが,Case03では広域海風が関東全域を覆っていることもわかった。さらに,Case01とCase03の海風進入時刻の比較も行った。その結果,都市の拡大に伴い都市と郊外の境界付近で海風前線が停滞することがわかった(内陸への海風進入時刻が遅れる)。

8.○原 智宏(九大・工),大屋裕二(九大・応力研):海風に伴う内部境界層の発達のシミュレーション
海風により発達する内部境界層(TIBL)は,臨海工業地域での環境問題を考える上で,重要な大気現象である。この状況下での大気観測予測手法を確立するため,温度成層風洞でのTIBLのシミュレート法を検討し,TIBL内の乱流構造の解明を行った。また,差分法を用いたDNSで風洞実験とほぼ相似な条件で数値シミュレーションを行った。実験,計算の両面から,TIBL上空の逆転層(安定成層)がTIBL内の乱流構造に大きな影響を与えることがわかった。

9.○吉門 洋(資源環境研),魚崎耕平(日本気象協会):濃尾平野の冬季の冷気流−関東平野と比べて−
濃尾平野は関東平野と同様に山地に囲まれ南は海に面し,初冬季には関東と同等の高濃度大気汚染が起きる。従って,両平野の低層の気流や温度成層もある程度類似の構造をもつと推定された。しかし,高濃度汚染時の濃尾平野の風をアメダスや汚染測定局データによって統計的に調べた結果,汚染気塊の流れは関東平野とは基本的に異なっているころがわかった。端的な差異は,東京湾周辺では冬でも昼間は海風が吹き込むのに対し,濃尾平野では出現しないことである。

10.鈴木力英(地球フロンティア):千葉県の風の気候学的特徴
なぜ,「千葉県」かというと,私が現在「千葉県誌編纂委員会」のメンバーとなっており,その中の「自然誌」の「風」の章の執筆を担当したからです.アメダスのデータを使って,千葉県内の風速,風向の年変化や日変化の統計解析結果,千葉県で最大風速,および最小風速を記録した時の事例,LANDSATから観測された海風前線に伴う雲などを紹介する予定です.


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