第32期第1回評議員会議事録

日 時

会 場

出席者 (敬称略)

合計31名

議事

  1. 開会の挨拶(廣田理事長)

  2. 出席者の紹介

  3. 評議員会の趣旨説明(廣田理事長)

  4. 評議員の意見と討論

    市川評議員

     国立研究所の独立行政法人(独法)化が進められてきている。気象研究所は独 法化したほうが良いのではないか。現在は狭い行政目的に縛られている。独法化 されれば制約が減り、中期計画、長期計画が立てやすくなる。ある研究所は独法 化に際してトップがポジティブな考えを示し、柔軟に考えてラジカルに対処した。 変化は大きかったが、研究がしやすくなり、うまくいった。別の研究所は独法化 に際して防衛的に対処して、元と変わらない。このように、トップの考え方、意 志次第でどうにでもなる。
     気象の研究を進めていく上で気象学を学んだ人だけで研究を区切ってはいけな い。気象の境界領域を気象学会に取り込むことによって、より発展するのではな いか。「○○学」とは、これまでの成果を後世に伝えるために作ったもので、後 ろ向きである。自分の前にある問題を解決するためには○○学に制約されないよ うにせねばならない。
     気象の研究にあっては、国民の生命財産を守るという理由をうまく使えば予算 はもらえると思う。
     大学にあっては学長(理事長)の見識に期待する。産業と結びつくところが有 利ではない。知的活動、大学としてやらなければならない研究に資源を使うべき だ。産業化、事業化ができなくても、うまくやれば社会からの資金獲得は可能だ。 人材育成の面では学部で基礎を身に付け、大学院で発展させて初めて新しい発想 が生まれる。 学会をその組織目標を設定して目標を達成するような組織にして はどうか。

    岩崎:
    学会は学会員の希望に沿うことが必要であると思うが、組織目標との関係 はどうか。

    市川:
    設定した目標を達成する長期的な活動により、成果が学会員にフィードバッ クされる。

    近藤:
    学会がリーダーシップを発揮して引っ張っていくのか、構成員が自主的に 進めるのか。

    市川:
    下からの積み上げのボトムアップでは漏れはないが、重点化がおろそかに なり、組織としては弱い。トップダウンでは伸ばすものは伸びる。ただしトップ は気象学の全貌が見えていて、かつ世の中の情報に目配りできる人が必要である。 そしてその周辺に濃厚な情報を集め、トップは細かいことを知りながら大局的に 判断する必要がある。例えばアメリカでは全ての情報が大統領に集約される。

    岩嶋:
    物理や化学のような基礎的学問と応用的な例えば地学とでは何か違いがあ るか。

    市川:
    基礎的な学問は学部から一貫して学ぶのが良い。例えば環境のように横断 的な分野は大学院に入ってから学ぶほうが新しい分野での展開が可能である。気 象学でも境界領域を突破しないといけない。日本の大学院ではどういう理由で何 がわからない、できないという境界を教えるべきだ。できることしか教えないの は問題。境界が分からなければ学問は発達しない。



    小川評議員

     これまで大学での個人研究、宇宙開発事業団(NASDA)のグループ研究の両方 を経験してきた。最近では研究情勢の変化がめまぐるしい。研究には個人の発想 が大事である。「事業」では○○が良いという決断がむずかしい。大気汚染が社 会的に問題になったとき、気象学会は社会的に何か対応できればという意識があっ たが、気象学会全体を同じ方向に動かすことは難しい。サブグループに分けて対 応するのが現実的である。
     政府は省庁の編成の見直しが終わって、公益法人見直しの動きがある。財務省 は公益法人、NPOに対し原則一律課税の方針を示している。学会は学問をやりた い同好の士の集まりであり、その活動に課税するのはおかしい、対応の検討が必 要である。

    山内:
    研究者の立場と事業の立場と両立するのか。

    小川:
    一人で両方やるのは困難。宇宙三機関の統合で事業団と研究所が統合され、 NASDAのロケット部門が民間に移行するので、雰囲気が変わるかなと思う。事業 団、国の研究機関の位置付けが大切。



    高橋評議員

     最近、学会では雲物理関係の発表が少ない。実験室や野外での多彩な観測がな い。また、大型プロジェクトばかりで観測はドップラーレーダー一辺倒、コン ピュータを使ったデータ解析ばかりになってきている。
     そこで、学会にアジアを含めること、若いリーダーを育成することを提案する。 気象学会の大会にアジアの研究者を呼んではどうか。インドやタイでは様々な観 測、研究が行われている。また気象学会がこれぞと思う若い研究者に5年間毎年 100万円提供して若いリーダーの育成するような仕組みが作れないだろうか。ア メリカの海軍研究所は若い研究者を選んで5-10年にわたって年間2万ドル程度支 給している。

    市川:
    最近日本では新しい分野、息の長い分野に展開できなくなっている。原因 は論文の数で評価するようなシステムだ。院生が研究労働者化している。そうす れば論文が書けて評価点が稼げる。しかしこれは評価の本来の目的ではない。日 本ではアメリカとは違う評価システムになってしまった。論文の数で評価するの は間違っている。見識のある大学のボスなどが研究成果の本質を見抜いて評価す るのが本来の姿である。



    柳井評議員

     日米の大学は随分違う。まず、研究者の人数、財政が根本的に違う。UCLAの大 気科学部には教官が15人いて、アメリカの50の大学に大気科学部がある。院生に 外国人、特に中国人が多い。
     気象の分野の研究費を産業からもらうことはない。NSFが基礎研究にお金を出 す。NOAAが大学に国際的な研究に対して相当の研究費を提供している。NASAも TRMM衛星の関係で大学にお金を出す。NSFの研究費は残しても次年度に繰り越し て使えるシステムであるので研究費を節約するようになる。非常にフレキシブル なシステムで能率が良い。日本でも研究の自由度を持たせたほうが良い。
     私は管理職をやったことがない。今は授業、教授会の義務はないが、指導教官 を続けていられる。アメリカの大学では決算などは事務方が全部行い、教官が雑 用をしなくてもすむ仕組みになっている。日本の大学の先生は何でもしなければ ならない。
     日本の大学院では学生と教官が密接な関係ではなく効率が悪いように感じる。 アメリカでは教官が学生をResearch assistantとして雇ってコントロールしてい る。大学院生がチームとして働いている。教授の教育への負担は日本の大学より もアメリカのほうが大きい。
     学会が率先して何かをやる必要があるのかは疑問。アメリカの気象学会(AMS) の会員の半数は民間気象事業者の人である。アメリカ人は日本人よりも気象が好 きなのではないかと思う。アメリカの新聞は天気で一面使う。Weatherwiseとい う民間の雑誌がある。日本では「天文と気象」が「月刊天文」になってしまった。

    廣田:
    大学院重点化で学生の質が落ちたとの指摘があるが、どう思うか。

    市川:
    私の感覚では学生の質は大学入学時点でかなり落ちている。知識が少なく勉強す る意欲が弱いので動機付けで苦労する。これは高校までの問題である。小学校で 落ちこぼれをなくすために教える量を減らした。特定の大学を除いて大学入試の 科目を減らしレベルを下げた。これに対する大学側の対策がない。一方、米国の 教育に対するエネルギーは桁違いだ。日本では大学教官が論文を書かないといけ ないので学部教育に時間を費やせない。日本の教育は崩壊している。これは日本 の社会の横並び主義を止めない限り解決策はない。科学者は、スポーツや音楽の ように、学校教育法にしばられない教育を受けないと解決しない。



    小倉名誉会員

    現場にいないので、研究所や大学の独法化のメリットがどこにあるかが分からな い。独法となった場合資金はどうなるのか心配である。アメリカでは寄付などに よる基金を運用している大学もある。また、学術会議、学会、審議会の役割分担 等はっきりせねばならない。


    栗原名誉会員

     近年は教育する人、学ぶ人、研究する人、みんな忙しすぎるのではないだろう か。今後情報量が増え、仕事が専門化する中で、私は「教育と研究にゆとりを」 といいたい。
     昔は野外実験や総観気象学演習などで実際の現象を見る機会があったが、今は その機会がない。また、考えることが大事だが、その時間もない。
     大学院を出た時点で専門化しなくても良いのではないか。大学院では研究の方 法を学ぶ。研究のやり方が身についておれば、大学院を出てからいろいろなもの を見つけられ、ほかの分野にも進めるはずなのに、それができていない。
     小学校には総合的学習の時間が設けられた。しかし先生がなんでも知っている わけではない。プリンストンではいろんな職業、商売のプロである父兄が小学校 などで子供に教えている。日本でも小中学生の理科離れを防ぐため、気象学会会 員が学校や団体に出向いて人々の自然への関心を高めるようにしてはどうだろう か。気象学には地域に協力できることがたくさんある。気象学会、各地方支部が その後押しをできれば良いのではないか。
     気象学会に属さないで研究を行うのは困難なので、研究者は学会に入っている。 研究者ではなく気象事業にかかわる人に対して学会はどうするか。周辺領域の研 究を進めるためには、研究ではない気象の仕事についている人に学会の会員にな るように勧める必要があるのではないか。
     日本の気象学会の大会にあわせて、適当な課題のミニコースとかワークショッ プを企画してはどうか。AMSでは年次総会のときにワークショップや講座を開催 している。
     大会は年に二度あるが、春と秋の大会の間が4〜5か月で短いせいか、深く掘り 下げる時間がないように感じられる。AMSの分野ごとの研究集会(コンファレン ス)の開催は1年半から2年に1度で掘り下げた研究の発表がある。


  5. 総合討論

    廣田:
    ここまでで評議員や名誉会員の考えを一通り聞いてきた。社団法人の責任として 気象学会が啓蒙、啓発活動を行うことに関して意見はないか。

    柳井:
    AMSの学会員は研究者でない民間気象事業者などの人の比率が高い。学会の賞に も特定の日の天気現象を的確に予報したことを表彰する賞がある。

    市川:
    大学が一般向けのシンポジウムを開催すると、20年前はいろいろな階層、年齢層 の参加者がいた。2-3年前は老人と女性しかいない。中堅男性は忙しくて出てこ ない。老人と女性をターゲットとして啓蒙活動を行い、老人と女性から一般社会 へ徐々に浸透させるのが良い方法ではないか。

    柳井:
    この委員会にこれだけの人数が集まっていて、女性が一人もいないのは驚き。ア メリカでは大学院の半数は女性だ。

    廣田:
    現役で研究をバリバリやっている女性はたくさんいるのだが。

    柳井:
    AMSのハリケーンのコンファレンスは盛んである。現業の人もたくさん参加して いる。日本でもこのような機会を是非とも作らなければいけない。

    古川:
    日本では気象庁の職員が参加しにくい環境にある。

    廣田:
    気象庁と気象学会の関係が変わってきた。昔は一体だったが、最近は気象庁の業 務を行っている人と学会とずれが生じている。どういう形態が良いのか模索して いるのが現状である。

    栗原:
    現業の人で最新の技術を身につけたいという人は多い。アメリカでは学会に予報 技術検討会のようなコンファレンスがある。学会に出てくる予報官は最新の技術 を身につけたいという意欲に燃えている。

    大西:
    気象庁の職員は調査研究に時間を割くことができない。気象庁は防災に視点を転 換している。警報を出す場合には気象学の専門的な知識が必要なくなってきてい る。だから現場の予報官には気象学会が必要ない。今仮に台風のシンポジウムを 日本で開いても10人集まるかどうかだ。

    柳井:
    AMSでハリケーンのコンファレンスを開けば300人は集まる。気象庁は大学などほ かの研究機関に研究費を出して研究を委託できないものだろうか。

    小倉:
    昔、気象庁には人材があるから外部との協力は必要ないという考えだった。

    市川:
    農水省、厚生省、経済産業省などは競争的資金を多様に持ち、研究機関に分配し ている。気象庁はそういう仕組みや予算がなく、今後も新たに取ることは困難だ ろう。大正時代は、工学では研究能力があるのは国立大学と工業試験所だけだっ た。第2次世界大戦時に軍需産業で企業が力をつけ、大学が疲弊した。産業が研 究、製造、販売を身につけ、産学連携のムーブメントが完成した。気象学は大正 時代の工学のような状態に見える。

    住:
    気象庁は貧乏だと言っているが、実は1950年代の気象庁の資金は潤沢にあった。 実況監視で何人、24時間、というだけで人が取れた。しかし、自然が相手なので その人数が変えられない。気象庁は守りに入り、概算要求でそれ以上予算を増や せなくなった。
     気象データは無料なので一人でこつこつできる。お金が多すぎると逆に苦労 する研究者が多い。お金を使った研究の仕方を研究者に教える必要がある。斎藤: 気象研究所が独法化された場合、研究の自由が保障されるのは良い。しかし、研 究組織として必ずしもメリットばかりではないようだ。学際的、基礎的研究には 大掛かりな装置が必要であり、観測データの解析にも複雑なプログラムとシステ ムが必要で多くの計算機資源が必要である。また、現在気象庁と大学との協力体 制ができつつある。目的を持った研究体制を作って大学が参加することも必要。 また、外国と協力していくためにも国の組織のほうが何かと良い。

    廣田:
    今日は貴重なご意見をいただいた。広い意味での学会の問題意識として今日いた だいたご意見を考えていきたい。1年後にもう一度学会としてどう考えているか という答を出す機会を作りたいと考えている。発言の要点をまとめた資料を作り 目を通していただいた後に学会機関誌「天気」に掲載したい。

  6. 評議員、名誉会員からの書面による意見(要約)

    尾池和夫 評議員

     国立大学の独法化に学会がどう対処するのかを教育、研究の面から考えること が重要である。最も重要なのは大学の入学試験における気象学の位置付けである。 高等学校の地学履修者の減少、大学受験で地学選択者の減少への対策を学会とし て検討して欲しい。
     気象学会と他分野との連携について環境を例にとる。大学では外部評価に対応 するため、短期間で社会の役に立つ分野の研究を進めようとする傾向が強く、環 境というキーワードの講座などが増えた。しかし地球環境を論じるためには気象 学あるいは気候学を中心とした地球の理解が不可欠であり、さらに気象学と固体 地球圏、磁気圏との共同研究が必要だ。例えば気候変動、海面変動はプレート運 動と密接に関係している。今後共同研究を意識的に発展させる必要がある。
     環境学は問題解決型の学問として設定されるが、気象学は地球上の水の循環と 熱の配分に果たす大気と海洋の役割を理解するという基本的な視点が重要である。 その上で、例えば農業気象学のような応用気象学との連携を保つべきだ。
     気象学と、環境や宇宙との関連を正しく理解してもらいながら広報するには、 社会へ説明する体制を学会として整えることを考えておくべきであろう。それを 的確に進めるには気象学会から周辺分野、関連分野への積極的な呼びかけも重要 であろうと考えている。

    竹内清秀 名誉会員

     気象学と関連のある境界領域に進出してその発展に尽力することが非常に大切 である。例えば環境問題では気象の果たす役割は大きい。また、環境問題で必要 となる様々なスケールの現象の取り扱いに熟達しているのは気象学の分野の研究 者であろう。全体を見渡して間違いなく舵をきる人が気象界から出てくることが 望まれる。
     気象学の発展のためのポイントを見つけ出して世界的な研究計画を策定し、そ れを実施するなど、世界の気象界をリードし、世界の舞台に一層の進出をするよ う努力してほしい。

    山元龍三郎 名誉会員

     農業気象学会、海洋気象学会などの学会だけでなく、気象予報士会、気象振興 協議会などの活動が活発となり、保険会社が天候デリバティブを取り扱うように なった。これらの活動は特定の分野に限られており、気象学全般を対象とするの は気象学会だけである。応用気象の分野との交流を包含した行事を企画してはど うだろうか。
     大会の講演数が増えているのに、気象集誌掲載の論文の第一著者の半数は外国 人のようだ。これは何か問題があるのではないか。査読を好まない会員が増えた のか、英語の苦手な会員が増えたのか。専門分科会を大会とは別の日時場所で開 催し、発表内容を印刷製本してはどうか。必要経費は発表者が負担し、気象学会 名で配布する。
 


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