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第34期第１回評議員会議事録

日　時

2007年３月５日（月）15時30分～18時20分

会　場

KKRホテル東京11階　朱鷺の間

出席者（敬称略）

評議員
酒井重典（日本気象予報士会会長），田口晶彦（（財）日本気象協会首都圏支社営業部お客様課長），時岡達志（（独）海洋研究開発機構地球環境フロンティア研究センター長），前田佐和子（京都女子大学現代社会学部教授），松田佳久（東京学芸大学自然科学系宇宙地球科学分野教授），安永数明（（独）海洋研究開発機構地球環境観測研究センター研究員），以上６名．

名誉会員
竹内清秀，以上１名．

理事
新野，岩崎，隈，近藤（裕），里村，高野（清），多田，田中，津田，中島，中村，林田，板東，藤谷，藤部，古川，松村，宮原，山崎，余田，以上20名．

監事
北川，高野（功），以上２名．

（事務局）　萩原，渡辺，以上２名，
合計31名．

開会の挨拶（新野理事長）

出席者の紹介

評議員会の趣旨説明（新野理事長）
日本気象学会は，学会活動の活性化のため，期ごとに新たなテーマを設定し，評議員会でご意見を伺ってきた．前の第33期では，理数教育，環境，気象データの流通という問題について議論いただいた．今期は，（１）若手研究者に将来専門研究者として活躍してもらうために，学会としてどのような支援ができるか，また何をなすべきか，（２）気象予報士会と気象学会との関係について，とりわけ，気象学的専門知識の向上を望む気象予報士の方に，学会としてどのような協力ができるか，また何をなすべきか，という２つのテーマを設定し，長年の経験をお持ちの方々からご意見をいただきたいと考えている．
　なお，本日いただいたご意見・ご提言については，来年の評議員会で担当理事から対応などをご回答し，改めてご意見を伺うこととしたい．
評議員の意見

（１）若手研究者に将来専門研究者として活躍してもらうために，学会としてどのような支援ができるか，また何をなすべきか．

　新野　

大学を取り巻く最近の事情として，大学院重点化により学生数が増加した反面，法人化の影響で教員が忙しくなり，学生の指導に割ける時間が減っているという問題がある．前の第33期で“理数離れ”について議論したが，大学院においても学生が十分実力をつけていないことが懸念されている．また大学院を出てPD （postdoctoral fellow；ポスドク（博士研究員））になると，期限付きのプロジェクトとの結びつきが強くなり，これまで蓄積されてきた学問体系や気象学・大気科学全体の動向を認識する時間が不足することが危惧される．こういう状況に対し，学会として何ができるか真剣に検討していくことが必要だ．松田評議員は長年にわたって幾つもの大学で学生を指導されてきた経験をお持ちなので，若手の実力向上について貴重なご意見をいただけると期待している．

　松田佳久評議員　

若手研究者の問題は大学関係者には良く知られているが，この場には気象庁のような業務畑の方もいらっしゃるので，一通りご説明する．
大学院重点化で大学院生の定員が大幅に増えたが，実はその前からも学生の数は増えていた．しかし，当時はまだそれほど定員数が多くなく，研究者の人気は落ちていなかった．第二次ベビーブーム生まれの人が若手の研究者になった十年前までは，気象分野は良い人材を確保できていたと思う．その後，定職に就けない研究者が大幅に増え，“理系離れ”を招く原因にもなった．理系でも特に数学・物理の人気が下がり，学生の質の低下や修士卒業者の就職増などにつながっている．また地方の大学では，せっかく学部で教育した学生が旧帝大などの大きな大学の修士課程に進学してしまい，研究室の運営が困難になっている．
これらは大学或いは国の政策や制度の問題であるため，政策決定権のない学会の努力だけでは何ともし難い．気象学会の問題としては，若手が学会で発表した後に，それを英語の論文にするときに高い壁があることを指摘したい．“気象集誌” は，他と比べて査読が厳格（厳し過ぎる）という声を聞く．この壁を低くすれば，若手の意欲を後押しすることになると思う．

　岩崎　

私は気象集誌の編集委員長を務めているが，査読が厳し過ぎるというご意見は伺ったことがなかった．是非検討したい．気象集誌は世界の論文誌と競争しているので質の向上が大事だが，同時に研究を鼓舞することも重要だ．ただ，処理すべき論文が多く，編集委員が良い査読者を選ぶのに苦労している．ご理解とご協力をお願いしたい．若手の育成も気象集誌の重要な役割と考え，いろいろ努力していきたい．

　松田佳久評議員　

確かに編集委員は大変だと思う．ただ，以前は編集委員が責任を持って最後まで面倒を見ていたようだ．最近は，編集委員が査読者の意見をそのまま著者に伝えるだけのことが多いのではないか．査読者から時には厳しすぎたり，過激な意見が出ることもあるだろうが，それらを取捨選択して著者に伝えるのが編集委員の役目だと思う．レベルの低い論文を切るだけがレベル向上ではなく，積極的に良い論文を速やかに発表することでレベルは上がると思う．

　岩崎　

編集委員会で検討して，良い方向にもって行きたい．

　田中　

気象集誌の査読が厳しいというお話があったが，気象学会では２年前に“SOLA” という英文電子レター紙を創刊した．良いものを速やかに発表できるよう，投稿から受理まで二ヶ月で処理している．リジェクトも30％程あり，決してレベルは低くない（注：気象集誌も30％程度；SOLAのリジェクトには，二ヶ月で処理できなかったためのものもある）．若手の業績を上げるため，まずとっつき易いSOLA を通り抜けてもらいたい．

　新野　

自分の最初の英語論文が印刷されるという経験は若手にとっては大変励みになり，やる気につながる．先ほど修士卒で就職する学生が増えているとのお話があったが，研究の楽しみを感じてもらえる機会を増やすことは大事と思う．
時岡評議員は，海洋研究開発機構の地球環境フロンティア研究センター長として，多くの若手研究者を抱えていらっしゃる．松田評議員のお話より少し上の年齢層を対象とした問題になるが，若手研究者の雇用問題についてお話を伺いたい．

　時岡達志評議員　

学会として何をなすべきか，身近な観点から考える必要があるだろう．大学院の定員は大幅に増えたが，学生の総数は減っており，入学者の質は明らかに変わっている．当機構は院卒者の就職先として，かつて年間10名以上を採用してきたが，予算規模も固まった現在は年間５名余である．しかも人件費抑制の政府方針もあり，たとえ資金があっても雇用は簡単でない．研究機関が成果を出す上で雇用は大切なプロセスであり，慎重な判断が必要だ．当機構の研究者の任期は原則１年で，最長５年まで延長できる．主任・上級研究員への昇進や裁量労働制などの仕組みがある．また処遇については，研究の計画と成果に対する自己評価をもとに，プログラムディレクターが評価し，それを処遇に反映させている．これは，有意義なテーマを設定して計画的に実行する訓練になっている．なお，研究の質の向上のため，GCM検討会などの議論の場を設けているし，セミナーや勉強会も活発に行われている．
学会の大会で若手の発表を聞いていると，短い時間での要領の良さに感心するが，短すぎて議論が尽くされていない．時間をかけた議論の場を学会が提供し，結果をオーソライズすることが必要だ．既存の研究会などへの支援に加え，新たに議論の場を設けたり，議論を活発にする能力がある人を研究会に招待・派遣すること，また盛り上げ役を務めることなどを心掛けるべきだ．若手を研究会に派遣して中心的役割を担わせるのも良いだろう．また予算的に可能かどうか分からないが，１件数百万円程の予算で研究を提案させる，“懸賞”を設けてはどうか．当機構にも似た制度がある．

　新野　

十分な議論の場を設けることが大事というお話はその通りだと思う．一般に“評価”というとややネガティブな印象を持つが，自己評価と上の立場の方からの評価を繰り返すことが研究者としての訓練に有用であるというお話は興味深く伺った．

　時岡達志評議員　

若手に対して，研究者として何をやるべきかを常に考えるよう，また議論するように言っている．自分で問題点を探せるようになると安心できる．

　中村　

地球環境フロンティア研究センターは，多くのPDを採用しているが，今後の展望はどうか．

　時岡達志評議員　

PDの任期は建前では３年までだが，２年間の延長を認めている．仕事をまとめるのに３年は短い．概ね５年程度は必要で，その後，研究員に応募することになる．また上になるほど人数が絞り込まれるので，他組織との人事交流が重要になる．最近は大学とは交流し易くなったが，今後，より広い範囲の交流について検討すべき点が多い．気象研究所も独立行政法人化されると聞いており，助け合えればと思う．ただし具体的な方策の検討になるといろいろ困難があるだろう．

　新野　

若手研究者の雇用問題に関しては，前田評議員からもお話を伺いたい．前田評議員は，地球電磁気・地球惑星圏学会で男女共同参画に係る調査やシンポジウムを実施され，若手研究者の雇用やPD問題についても調査をなさっている．気象学会とは異なる視点からのお話も含めて伺いたい．

　前田佐和子評議員　

このような機会をいただきありがとうございます．私たちの学会でも大学院重点化によるPDのレベル低下を危惧しており，実際にレベルの低いPDに対する批判も多い．物理学会や応用物理学会では，昨年から本格的な支援の取り組みが始まっている．以下で配布資料の要点を説明する．
文部科学省が実施した就職状況の調査を見ると，理学系の就職率は全分野の平均より低く，逆に無業率が高くなっている．無業者の殆どはPDであり，中でも地学分野の状況が悪い．個々の資質向上だけでなく，学術体制の在り方をどうするかも課題だ．
物理学会の調査によれば，90年代以降，博士卒の無業者が全分野で増えており，その傾向は理学系で顕著である．また就職先について，専門外の分野への転向が 2000年以降に増加しており，事実，就職先の分野にこだわらないPDが増えている．一方，高等教育機関への新採用は60年代から半減し，教員になる前にPDを経る場合も増えている．なお，文科省の統計でPDは無業者に分類されているが，科学技術政策ではPDを有用な人的資源と見做して任期付ポストを拡充するなど，政策の矛盾も指摘できる．
若手研究者の支援は必然的に男女共同参画問題と連動する．女性の学術分野への本格的な参入時期とPDの出現時期は重なっており，文科省の調査でも，女性研究者の比率は低年齢層で高い．気象学会でも佐藤薫さんが調査されているが，一般会員より学生会員で女性の比率が高く，若い女性研究者は確実に増えている．多くの学協会で例外なく同じ傾向だ．
次に，私たちの調査結果の主な内容について説明する．まず，学術研究に対する PDの貢献度の高さが評価されている．実際に研究だけでなく研究室の運営やプロジェクトの遂行，後進の指導といった管理能力を評価する声も大きく，このことはPDを採用する際の評価にも影響している．またPDの雇用実態が多様であることが，さまざまな問題をはらむ要因となっている．勤務時間が規定を大きく上回っている事例も多く，更に規定の勤務時間の違いにより社会保障の内容が異なるなど状況は複雑だ．PD支援のため，応用物理学会の「人材育成・男女共同参画委員会」などの取り組みが始まっているが，気象学会のような大規模で裾野の広い組織が取り組めば，社会的影響は大きいだろう．
今後の対応として，PDの実態解明のため進路の追跡調査が必須である．学協会から学術会議に対し調査の実施を強く提案すべきだ．なお，物理学会ではこのままの状況が続いた場合の無業者の年齢構成の予測シミュレーションを行い，その衝撃的な結果が後の対策拡充につながった．このような取り組みも有効だろう．当面の処置では，任期途中での中間評価を組み込んだ期間延長制の導入や，分野を変えても研究を続けたいという研究者の意識があることも踏まえ，博士卒業者の就職データベースを整備するなどの取り組みが必要と考える．PDの実態は殆ど明らかになっておらず，社会全体で取り組むべき問題である．特に学術界からの強い提言が必要だ．

　新野　

貴重なデータに基づくお話で大変勉強になった．PDの実態が把握できていないことが，いろいろな取り組みをしていく上で障害になっていることが良くわかった．

　中村　

私自身もPD問題では困っている．“就職先が専門と違う分野でも構わないPDが多い”という調査結果には励まされる．日本全体としては研究者の数を増やしていかなければならず，チャンスはあると思う．指導する側としては，世の中に出て行くための実績を持たせることが任務だ．

　藤谷　

私が勤務している連携拠点はオフィスが環境研にあるが，そこでは広報などの事務職にもPDの応募がある．実際，研究以外のポストにも女性PDの応募が増えている．研究経験のある男性は研究職に執着するようだが，若い女性にそのような傾向は見られない．とにかくポストが欲しいという感じだ．男性と女性で違う面があると思う．

　前田佐和子評議員　

最近，３人の女性PDの就職に関わったが，３人とも分野を変えた．女性の方が柔軟かもしれない（笑）．また卒業後数年以内は動き易い面もあるだろう．今のままでは駄目だという意識に男女差はない．研究者が外に出て行ける環境づくりが大事だ．

　林田　

松田評議員と前田評議員のお話は，根本でつながっている．分野を変えるのは結構だが，他分野で通用する業績とは，現実には“論文数”であり，隣接分野で競えば論文数の多い方が勝つ．毎年10～20論文を平気で出す上に，それらを引用し合うような分野にはかなわない．気象学会には，他分野と競合できる“戦略的ジャーナル”の考え方が必要だ．ただし，査読の労苦も伴うので簡単な話ではない．いろいろと考えないと気象分野はどんどん細っていくことになる．

　余田　

政策の矛盾というような切り分けるべき問題はあるが，実際にはPDがどんどん世の中に出て行ってもらわないと困る．実際，認められて他分野で活躍しているPD もいる．各専門分野で頑張るのみならずにどんどん出て行って活躍する人がいないと大学院重点化の政策と合わない．

　前田佐和子評議員　

科学ジャーナリストや科学技術コミュニケータといった花形の職業に何人も就ける訳ではない．科学教育を推進する就職口が必要だ．自然科学の研究者の数自体が十分かどうかの検討も含め，将来，人口構成が変わった後にも十分な教育ができる人的資源について今から考えておくべきだ．学術界から国に圧力をかけないと，人材活用の方法やニーズを政策に反映させるのは難しい．

　余田　

まさに本日の議題そのままの問題だ．大学院重点化前は大学院に入る時点で相当にふるい分けがあり，研究者の意識も高かった．今後，この気象学の分野を発展させていこうという，生き生きとした若手が出てくる仕組みを学会として作っていく必要がある．今，若手研究者は大勢いるが，次世代のリーダーが見えてくるような仕組みが必要だ．皆が３年～５年の期限付の研究を続けていくだけでは難しいだろう．

　新野　

続いて，PDの経験者で，若手研究者としてご活躍中の安永評議員にお聞きする． PDの抱える問題点や，今の余田理事のご意見にもあった，若手研究者にとってやりがいのある分野にしていくにはどのようなことを期待するかについてお話いただきたい．

　安永数明評議員　

私はPDを二つ経験して現在のポスト（海洋研究開発機構）にいる．当機構では， 2007年度４月から新しい人事制度が始まり，その新制度では，PDから研究員，主任研究員，上級研究員と上位職種があるが，上がるに従って定員が半分になっていくと発言する経営者もいる．数年前にPDを増やしたこともあったが，来年度はまた減るようだ．一方，以前に在籍した地球科学技術総合推進機構（AESTO）では，上位職はなくPDのみだったが，予算が減らされたため，在籍すればするほど給料が減る状況だった．また大学のPD採用でも，予算獲得に失敗して公募要件を大きく下回る給料しか支払われなかった理不尽な事例もある．外部資金を使って PD以外（上級の研究職）を何故雇用しないのか疑問だ．現状では，下の方に全ての資金繰りのしわ寄せが来ており，PDでつじつまを合わせている状態だ．
気象学会への要望が二つある．まず，論文数やポスト，年齢といったPDの実態を十分に把握していただきたい．次に，外部資金で上位の研究者を雇用するよう働きかけていただきたい．PDだけへの不平等なしわ寄せを緩和するには，上の人も泥をかぶる… 例えば“競争的研究資金”から上の人の給料の一部を出すことで，資金不足の場合には，PDだけでなく上の人の給料も同時に減るような“痛み分け” も必要ではないか．更に，海外の機関の募集情報を学会が集約するのも効果的だろう．このような関係づくりも重要だ．

　新野　

まず，学会で具体的な問題を把握することが大事で，ご提案いただいたことも含めてやれることから始めていく必要があると思う．

　隈　

大学院生等の裾野が広がったということで，気象学会として，社会への還元という面でのスタンスを持つ必要があるのではないか．また気象庁では最近，大学院卒を含め大卒の採用者が増えているが，気象の勉強をしてきた人は少ない．社会への還元について学会の取り組みにポリシーがあれば，気象庁としていろいろ関わることができ，大学院生の就職問題にも若干は貢献できるのではないか．

　新野　

気象庁採用者に気象の勉強をした人が少ないというお話だが，実際どのような状況か．

　高野（清）　

地域によって差があると思う．私の担当支部である九州では，気象の勉強をした人が気象台に就職する割合は比較的多いと思うが，それでも半分はいないのではないか．

　藤谷　

国家公務員Ⅰ種を減らす政府方針により，気象庁においても採用数を減らしている．今は少しはⅠ種を増やそうとしているようだが，“焼け石に水”だ．Ⅰ種採用においては，若い人を中心に採用する傾向があるため，博士課程終了者を採用することが困難であり，以前いた気象研究所でも，戦力の補充ができなかった．

　時岡達志評議員　

2005年の人件費を基準として，５年間で５％削減しなければならないことの影響は非常に大きい．“競争的研究資金”で実行するプロジェクトの要員は削減対象にカウントされないので，この資金の獲得は重要だ．現在，関係機関が協力し，現在競争的と見做されていない資金も競争枠として認めるよう，文部科学省を通して総務省に申し入れているところである．このままの状態だと研究が立ち行かなくなる恐れがある．
そこで学会への提案であるが，この問題は若手研究者の雇用と研究の機会を左右するものなので，学会として日本学術会議に対して“外部資金プロジェクトの資金での雇用は全て削減対象から外す”ように働きかけて欲しい．学術会議はなかなか動き難い組織であるが，他の機関とも協同で問題解決に取り組んでいただきたい．

（２）気象予報士会と気象学会との関係について，とりわけ，気象学的専門知識の向上を望む気象予報士の方に，学会としてどのような協力ができるか，また何をなすべきか．

　新野　

学会活動の社会へのインパクトについては前33期の評議員会でも議論された．気象学会は，これまで社会問題と“積極的には”関わらない立場を取ってきたが，環境や防災など実際には社会と密接に関わっている側面はいろいろあり，今後どのように関わっていくか考えていく必要がある．気象予報士の方々は，気象が正に社会と接するところで活動されている．前33期では気象データの利用や流通という話題を中心に取り上げたが，今期は予報士の専門知識の向上について議論したい．気象学会に対してどのような取り組みを期待するか，日本気象予報士会会長の酒井評議員にご意見を伺いたい．

　酒井重典評議員　

ここまでは研究者育成の議論だった．大きく見ると，気象予報士は研究者と気象情報の利用者の中間に位置しており，学会における研究成果を社会に伝えるのが気象予報士の役目と認識している．はじめに気象予報士について簡単におさらいする．
平成５年の気象業務法改正による天気予報自由化に際して，予報の品質保持のため予報士の資格が導入された．気象庁から提供されるさまざまな情報を解釈して世間に伝えるのが予報士の基本的な仕事であり，高校から大学教養レベル程度の物理と予報業務の専門知識が求められている．平成６年度の第１回試験以降，年に２回ずつ試験が実施されている．毎回の受験者おおよそ5,000人のうち合格者は４～５％の約200人である．年間400名の予報士が誕生し，現在6,000人程が資格を持っている．このうち日本気象予報士会に所属するのは４割の約2,500名である．予報士会は，会員の親睦，技能研鑽及び社会への情報還元を目的としており，機関紙「てんきすと」を毎月発刊するほか，メールによる情報交換などを行っている．予報士の多くは気象が本業でなく，自分の関わる分野に気象情報を役立てる目的で資格を取っている者もいる．社会への還元として，お天気フェアなどへの参加や防災訓練で気象の解説も行っている．小・中学校の出前授業にも取り組んでおり，関西気象予報士会がこのことで気象学会の奨励賞をいただいたのは大きな励みになった．今後もこのような活動を評価していただきたい．技術研鑽としては，検討会や講習会，講演会を定期的に開催している．最近，学会での発表も増えており，また“防災”をテーマにスペシャルセッションも開催した． “教育と普及委員会”への参加も含め，学会とのつながりが大事との認識も深まっている．また３年程前から会員の有志が集まり，長期予報の利活用のための研究会が活動しているのをはじめ，いろいろな研究活動をしている．
気象予報士会は研究分野と一般社会との橋渡しになれると考えている．気象学会には，予報士の技術研鑽への援助，講演会や検討会への講師派遣などを通じ，新しい知見なども伝えていただけたらと思う．なお，気象予報士がみな日本気象予報士会に所属している訳ではないが，気象予報士全体の技術を維持していくためには，できるだけ多くの予報士が会に参加することが望ましく，会員を増やすよう努力している．気象学会には，技術レベル維持のための支援を期待するところである．

　新野　

気象予報士会の現状がよく理解できた．検討会や講習会などでご協力できればと考えている．

　中村　

お話を聞く限りでは，“学会イコール研究者”とお考えのように思えるが，その認識は誤りで，学会側としても活動の裾野を広げていく必要がある．例えば天文学会は研究者でない（“オタク”的な）会員を大事にしており，気象学会もそうでなくてはならない．社会とのつながりを持つことで，協力して活動できる点が増えると思う．

　酒井重典評議員

気象学会の大会での発表が増えており，温かい目で見ていただきたい．もっと裾野が広がればと思う．

　中島　

中村理事のご意見と同じだ．是非協力して活動したい．このような取り組みは非常に重要なのだが，気象予報士会はどこか遠慮しているようなところがあるように感じる．ところで，気象庁との現在の関係についてお聞かせいただきたい．

　酒井重典評議員

気象予報士会は任意団体として発足したが，現在は法人化の途上にある．本会と気象庁の窓口は“民間事業振興課”で，振興課の職員の方にアドバイザーに就任していただき，適宜ご支援を受けている．このため地方における気象台との関係も良好である．学会の地方支部との間でも，同じように良い関係で活動できればと思う．

　中島　

気象庁との関係は公的なものだろうが，気象学会とは自由な関係でよいと思う．学会に入って，“天気”を読んで，コラムに投稿して…という具合に，どんどん活動していただきたい．

　酒井重典評議員

機会ある毎にそのような話しはしているが，これまで気象を勉強したことのなかった人が大部分で，特に文系の人にとって気象学会のレベルは“雲の上の存在”に見えるようだ．

　藤谷　

気象業務支援センターとの関係はどうか．予報士試験合格後のアフター・ケアなどは協力しているのか．

　酒井重典評議員

予報士会の事務局は，会則上は気象業務支援センターに置かれているが，技能講習に関しては特に強いつながりはない．“気象カレッジ”などの支援センターの活動とも連携していない．技能に関するアフター・ケアは本会独自に行っており，技能講習会は地方からも応募者が多く，すぐに定員が埋まる状況だ．このような技能講習などの活動で気象学会に支援をお願いすることもあるだろう．

　岩崎　

社会との接点で気象データがどのように使われるかが大事な点だ．新しい研究の種にもなる．協力の在り方について，気象学会側も学ぶべきところが多い．

　酒井重典評議員

　具体的に検討させていただきたい．先に述べた長期予報の利活用についても検証しながら進めている．いろいろ方法があると思うので，成果が上がれば気象庁に対しても協力できるかもしれない．

　余田　

長期予報についてはアンサンブル予報が始まって10年程が過ぎた．これからは利用者も含めアンサンブル情報をより有効に使い，高度利用していく段階に持っていく必要がある．気象庁，気象学会が協力した調査や研究が大事だ．

　酒井重典評議員　

よろしくお願いしたい．

　新野　

田口評議員は，以前はテレビキャスターとして活躍され，また“天気”の編集委員も務めていただいている．いろいろな視点からのご意見をいただけると期待している．

　田口晶彦評議員　

私は５年前まで，８年間NHKの天気キャスターを務めた．気象予報士がテレビに登場しはじめた当時は，NHKにおける気象情報の伝え方の変革期であり，例えば台風が日本に接近したときに，現地の気象台の予報課長でなく，スタジオの気象予報士が解説するようになった時期でもあった．一般向けの解説は社会的な影響が大きく，学会が正しい知識をサポートすることも大切だ．技術維持のための講習会や出版物などによる支援，更に情報の権威付けなどが必要である．最近は一般向けの情報や，さまざまな産業分野への気象情報の利用が広がり，社会への影響に目を向ける必要性が大きくなっている．気象学会からは，コアとなる防災，環境などの問題及びそこから派生する社会・生活活動まで一貫したサポートが必要だ．
天候デリバティブの専門家によると，日本の企業の７割～８割は天候によって売り上げ等の影響を受けていると言われており，このような事情から予報士の資格を取る人も多い．学問的な啓発が必要だ．情報が有効に使われていない分野もあり，使い方の啓発も必要だ．情報の発信については，例えば研究会を共催して宣伝する方法もあれば，“しきい”を低くする観点から，“天気”に記事を掲載し易くするなどの“受け皿”の整備も有効だろう．また現在のネットワーク社会を考えると，メールやウェブで簡単に投稿できる技術的な仕組みも必要だと思う．研究者だけでなくいろいろな人に参加してもらうことが大事だ．

　新野　

予報士会の方が気象学会の活動に参加し易い場を提供することと，そのような場を通して相互に協力し影響し合うことが大事というご意見と受け止めたい．

　古川　

ここ数年，学会の教育普及活動に関わってきたが，気象の学術研究は一般の社会生活分野におけるマーケットや接点が少ないように感じる．土木や建築分野の研究は生活との接点が多いが，気象分野の接点が少ない理由を考える必要がある．なお，講師を派遣するにも資金が必要だ．昨今の財政悪化の影響により根幹で動けない状況にあり，活動の足場を確保することも重要だ．

　隈　

社会還元という点では，人材が不足している地方の潜在的ニーズに対する協力も大切だ．地方の課題をどうやって全体で解決するか考える必要がある．例えば中央の機関で学校の副読本を作成するなど，地方が一から十まで全て用意せずに済むようにすれば効果的ではないか．また最近，地方の大学に環境や防災に関する拠点も増えており，気象学会がこのような流れにどう乗っていくか検討が必要だ．

　中村　

財政が厳しいのは事実だ．一般に対する広報（アウトリーチ）の必要性が言われ，そういった活動にも資金が必要だが，例えば研究プロジェクトの資金で人を派遣することもできる．気象学会に仲介の労をやってもらえればよい．

　古川　

やはり先立つものがないと動けない．いろいろ活動したいが，例えばテキストを作るにも人手と資金がかかるのが現実だ．

　藤部　

地方への情報提供という点では，インターネットの活用を考えるべきだろう．学会としてネットワークを有効に利用できれば良いと思う．

　藤谷　

どういう分野で切り込むかが大事だ．防災や環境など切り口は多いが，例えば環境省は広報やアウトリーチ活動に大量の資金を投入してきており，はっきり言って勝負にならない．気象学会は隙間を狙うことになる．ニーズの見極めが重要だ．

　田口晶彦評議員　

気象予報士会でアンケートを取り，協力できる分野について検討するという方法もあるだろう．

　 酒井重典評議員　

気象予報士会は“金なしボランティア”の集まりだ．講習会や会議などは全て “持ち出し合い”の状態で身動きが取れない．気象学会も同じような状況だろう．このため行動が制約されてしまう．

　余田　

インターネットを活用したアウトリーチ活動の例がいろいろある．例えば，世界中の十数万人が参加した温暖化予測ネットの事例（climateprediction.net）もある．インターネットの巧い利用法を考えるのは価値のあることだ．

　新野　

本日の議論の内容について，竹内名誉会員にも是非ご意見をお伺いしたい．

　竹内　

まず若手の問題について，学会活動の場を若手に合うように変える必要があるのではないか．研究発表会の性格を，例えば総合報告やトピックスの解説などをできるだけ分野別に導入し，発表者には分野の全体像を確認し，関係の少ない人には広い知識が得られるようにすることが必要だ．また“天気”や，NOTEのような形などで発表でき，比較的気楽に有効な記事の掲載ができるよう検討してはどうか．なお，最近の若手は何処か他人に頼っているように感じられる．自分自身で道を開拓せよ，と言う考え方もある．昔は海外に出かけて立派な業績を上げた人も多かった．若手には“たくましさ”が必要と思う．
次に，気象予報士会との関係をより密接にするため，学会に“窓口”を作ったらどうか．教育と普及委員会が適任だと思う．常に風通しを良くし，連絡し易くする必要がある．予報士の側も予報だけでなく気象の全般を知れば，学問の深さが分かるというものだ．観測やその他いろいろな講習会を企画すれば，学会から講師を派遣することもできるだろう．なお，気象学会に入会していない予報士の方には是非入会していただくよう，お願いが必要だ．気象は一般社会と関係が深いが，研究に踏み込むと社会との関係が薄くなることが多い．気象分野にも，研究者と，研究成果を利用して社会に接する者の両方がいる．研究を利用する側が “学会に入って良かった”と思える，また大事にされる状況になれば良いと思う．それに関連して，“サイエンスカフェ”の取り組みの現状をお聞かせいただきたい．

　古川　

サイエンスカフェについては昨年のこの席で計画をお話した．昨年は東京で５回開催し，本日お越しいただいている酒井評議員にも講師をお願いした．今後，地方開催も検討している．

閉会の挨拶（新野理事長）
本日は数々の貴重なご意見をいただいた．気象学会理事会として真摯に受け止め，出来ることから少しでも進めていきたい．今回いただいたご意見・ご提言に対する気象学会としての回答を，来年の評議員会でご報告させていただきたい．なお，時間の関係で総合討論ができなかったことをお詫びする．本日はどうもありがとうございました．

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第34期第１回評議員会議事録

日 時

会 場

出席者（敬称略）

開会の挨拶（新野理事長）

出席者の紹介

評議員会の趣旨説明（新野理事長）

評議員の意見

閉会の挨拶（新野理事長）

日　時

会　場